近年、自転車事故で相手に大けがを負わせて裁判で高額の賠償命令を受ける例が相次ぎ、万一に備える保険に加入する重要性が増しています。
そんな中、耳寄りな情報もあります。月額100円台の保険料で手厚い補償が受けられる保険が登場しているのです。
(出展:日本経済新聞 2019.7.20、産経WEST 2013.7.13)
1-(1)近年の高額賠償となった自転車事故
では、近年の例で、どれほどの高額賠償命令が出されているのでしょうか。
Aケース 平成20年6月 東京地裁 9,266万円
自転車運転中の男子高校生が車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた24歳会社員男性と衝突し、会社員は言語機能の喪失など重大な障害が残った。
Bケース 平成25年7月 神戸地裁 9,520万円
坂道を下ってきた小学5年生の少年の自転車が歩行中の62歳女性と衝突し、歩行者の女性が意識不明となった。
Cケース 平成26年1月 東京地裁 4,746万円
信号無視した会社員の男性46歳の自転車が横断歩道を渡っていた75歳の女性と衝突し、歩行者の女性が死亡した。
1-(2)自転車の小5男子が衝突し女性が意識不明に。約1億円
このうちBケースはどのような事故だったのでしょうか。
事故は平成20年9月22日午後6時50分ごろ、神戸市北区の住宅街の坂道で起きた。
当時11歳だった少年は帰宅途中、ライトを点灯しマウンテンバイクで坂を下っていたが、知人と散歩していた女性に気づかず、正面衝突。女性は突き飛ばされる形で転倒し、頭を強打。一命は取り留めたものの意識は戻らず今も寝たきりの状態が続いているそうです。
裁判で女性側は、自転車の少年は高速で坂を下るなど交通ルールに反した危険な運転行為であり、母親は日常的に監督義務を負っていたと主張し、計約1億590万円の損害賠償を求めた。
一方、母親側は少年が適切にハンドル操作し、母親もライトの点灯やヘルメットの着用を指導していたとして過失の相殺を主張していた。
平成20年9月の神戸市の自転車事故現場
しかし、平成25年7月神戸地裁判決は、少年が時速20~30キロで走行し、少年の前方不注意が事故の原因と認定。事故時はヘルメット未着用だったことなどを挙げ、「指導や注意が功を奏しておらず、監督義務を果たしていない」として、母親に計約9520万円の賠償を命じたものです。
担当した弁護士は「自転車でも過失があれば、しっかり賠償しないといけないが、自転車利用者の多くは保険に未加入で、自己破産する例も少なくない」と指摘する。
1-(3)自転車の保険加入は10%未満か
自転車の普及推進や啓発活動をしている財団法人「日本サイクリング協会」(JCA)によると、全国の自転車の保有台数は7000万~8000万台で、うち約3000万台が日常的に利用されているとみられます。しかし、自転車の保険加入率について、JCAは「統計がないため把握し切れていないものの、10%に満たないのではないか」との見解を示します。
自動車の場合、自賠責保険の加入が義務付けられています。「損害保険料率算出機構」の統計では、任意保険の加入率についても、対人賠償保険、対物賠償保険いずれも73.3%と高水準となっています。
一方で、自転車の保険は加入義務がなく、JCAは「自賠責保険のように保険加入を義務付けるなど、制度を整備しないと不幸は繰り返される」と警鐘を鳴らしています。
保険種類 |
傷害保険 |
個人賠償責任保険 |
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備えるリスク |
事故のケガの治療など |
被害者への賠償 |
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保険料 |
比較的高い |
比較的安い |
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注意点 |
公的な医療費助成などでカバーできる場合も |
自動車保険などの特約で加入済みだと無駄に |
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一般的に自転車保険は大きく2つの部分に分けられます。
事故による自分のケガなどに備える傷害保険と、
相手のケガやその持ち物の損壊の賠償に備える個人賠償責任保険です。
通常、保険料は障害部分が高く、個人賠償部分は低いものです。
自分のケガは、子どもなら公的な医療費助成で賄われる例が多いこともあり、高額な補償は必須とは言えません。
一方、個人賠償責任保険は賠償額が高額になることも想定して、最低1億円はつけたいものです。
保険料を節約したいなら傷害部分を抑え、個人賠償に重点を置くことが一つの方法です。
実際、最近は個人賠償責任の保険金が1億円以上でも、保険料は月額100円台の商品が増えています。
商品名 | 運営主体 |
月額保険料の 最安値例 |
賠償責任 | 特徴 |
自転車ライフ 安心保険 |
LINE Financial、 損害保険ジャパン日本興亜 |
100円 |
1億円 (国内の自転車関連のみ) |
LINE上で申し込み、決裁が完結 |
サイクル安心 保険 |
全日本交通安全協会、 損害保険ジャパン日本興亜 |
約103円 |
1億円 (国内の自転車関連のみ) |
年齢制限なく加入できる |
サイクル アシスト |
楽天損害保険 | 約113円 | 1億円 |
3年間の長期契約可。 ネットでの申し込みのみ |
ポケット保険 |
三井住友カード、 三井住友海上火災保険 |
140円~ 160円 |
1億円~3億円 | カード会員のみ対象。他の補償をネットで簡単に追加・変更可 |
まるごとマモル |
日本生命保険、 あいおいニッセイ同和損害保険 |
約166円 |
国内無制限、 国外3億円 |
保険金の上限が高い。別居中の父母もカバー |
(注:月額保険料は年払いを月額換算した数値を含む)
「自転車ライフ安心保険」は、LINEアプリで加入できる。保険料は月100円。保険料が高く補償が充実したタイプもあるが、「月100円でも個人賠償責任の上限は1億円。割安なタイプの商品が売れ筋だ」と、引受保険会社の損害保険ジャパン日本興亜の担当者は言う。
「サイクル安心保険」は同じく損害保険ジャパン日本興亜が引受ける。これもインターネットでの申し込みなら月約103円だ。全日本交通安全協会の自転車会員専用の保険だが、同会への加入手続きは基本的に保険と一体化され、手間はかからない。
これらの保険の対象は国内の自転車関連事故などに限られるが、多少保険料が上がる代わりに補償の範囲が広くなる商品もある。
「サイクルアシスト」は楽天損害保険だが、広く日常生活で生じた賠償を1億円までカバーする。例外は自動車事故や業務中の事故など。3年の長期契約ができることも特徴で、基本タイプでは1年契約の場合の保険料は月約135円だが、3年契約なら同113円まで下がる。
「ポケット保険」は三井住友カードが同社のカード会員向けに用意するものだが、名称に「自転車」が入っていないものの実は隠れた有力商品である。必要な補償だけ選べることが特徴で、このうち個人賠償責任の保険金は最大の3億円を選んでも月額保険料は120円で、基本契約の傷害部分を加えて月160円で契約できる。
「まるごとマモル」は日本生命保険とあいおいニッセイ同和損害保険が発売しているが、自転車を含む日常生活全般の賠償リスクを対象とする。保険金額は国内なら無制限で、保険料は月約166円からに抑えてある。
ただ、せっかく自転車保険を慎重に選んでも、自動車保険など別の商品の特約で個人賠償責任保険に重複加入していると無駄が大きくなります。
重複加入した個人賠償責任保険に両方とも上限金額があるタイプならば、1つの保険では金額が不足する時、両方から案分で保険金が出る例はあります。
ただ、片方でも無制限のタイプなら、重複加入はまったくの無駄だと、あるフィナンシャルプランナーは言います。
自動車保険以外にも、火災保険などの特約で個人賠償責任保険に加入している人もいるでしょう。自転車保険に加入する前にぜひ確認しておきたいものです。
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